千椰子 作







その日、あたしは張り切ってたの。
創立記念日でね、朝、例会があるだけで学校は終わり〜。
夢のようだわね。
毎日ヒーヒー勉学に勤しんでる身としては。

学校が終わると、遊びに行こうよ!っていう友達を振り切って、あたしは一目散に源ちゃんのお店に直行。
こんな日に、いつも顔つき合わせてる子達と一緒にチョコパなんか食べてても面白くもなんとも無いじゃないのよ、ねぇ?
それよりも、ここしばらく喧嘩して無かったあたしの血はじんじん騒いじゃってるのよ。
誰かにじんじんさせられなくても、自ずから騒いじゃってるのっ。

お日様が照ってる昼間だってのに、こういう淫靡な店はちゃんと開いてて、どういう人種だろ?
結構まともなスーツ姿のオヤジがいたりするのよね。
世の中どっかおかしいわ。
いつもの通り、裏口階段を下りてドアを開けて、ちょこっとお店の方を覗いてみる。
「おはよー!」って、朝じゃないしゲーノー界でもないのに、私と源ちゃんはいつもそう挨拶することになってるの。
「あれ?今日はオサボリちゃん?」
「違いますっ!あたし、サボったりしないも〜ん。今日はもう学校終わりなんだも〜ん。」
「そっか。今日はどっち方面行くの?」
ツーと言えばカー、とはこのことよねぇ。
あたしが顔出したら、もう源ちゃんはあたしに貸してくれる制服のこと考えてくれちゃってるの。
持つべきものは良き理解者、って、ホントよねぇ。
「今日はね、ちょっと時間あるし下の方攻めてみようかと思ってんの。なんか良いヤツある?」
「そうねぇ、下の方ねぇ....」
あ、このね、下の方ってのは地図で見て下の方にある地域ってことなのよ。
今あたし達がいるのが、東京の西方面のちょっと上の方だから、このまま下ってくと....川崎とか鶴見、横浜辺りになるわけ。

「あ、あるわ。S女学院のが入ってる。麻子ちゃんにサイズ良いと思うけど。」
「S女かぁ。ハイソ過ぎね?それって。」
「あらぁ、おハイソが喧嘩ってのが良いんじゃないのぉ?」
ふへへ、源ちゃん分かってるわ〜〜。
S女学院ってのは、横浜と東京の境目にある超が付くほどのお嬢様学校。
S女の生徒でも、こんな所(あら、源ちゃん失礼!)に制服売りにきたりする子もるのねぇ。
「そうねぇ、それは言えてるわよね。じゃ、本日はぁ、おハイソ喧嘩って路線で〜。」
紺の襟と襞スカートに、薄紫の三角スカーフ。
スカートは膝がやっと隠れる感じで、勿論お約束の白の三つ織ソックス。
んーーー.....このセンスって、どうなのかしらねぇ?
え?良いの?こういうの好きなの?
ふ〜〜ん。男って不思議ねぇ。

さっさと着替えて、ちょっと源ちゃんと駄弁ったあたしは、久々に渋谷に出た。
大繁華街はさぁ、補導員とか煩いんで普段はなるべく出ないようにしてるのよ。
まぁ、そういう場所でもキッと前を向いて、タッタカタッタカ歩いてりゃ、けっこう大丈夫なんだけどね。
東横線、これも久々だわぁ。
なんかちょっとお洒落で好きな線なんだけど、あんまり喧嘩に付き合ってくれる子達がいないのよ。
ある意味、つまんね〜のね。
これだけは持ってきた星新一の文庫本なんか読みながら、うだうだ電車に乗ってたら、あっという間に横浜に着いちゃった。


桜木町で京浜東北線ってスゲダサい名前の電車に乗り換えて、私は山下町で降りた。
もうこの辺になると、何処に何があるのか、よく知らない街。
しばらくタッタカ歩いて、右側の坂道を登ってみた。
緑が多くて、なんだか着ている制服にぴったり合うようなおハイソな感じの家が並んでいる。
でも、古いなぁ。
家の方のコーキュージュータクガイに建ってる家とは、もう格が違うって感じ。
ポクポクと坂道登って、ふと見ると小さな公園がある。
うふふ
いそうだわ〜。
昼下がりの小さな公園って、ねぇ?、いそうでしょ?
誰が?って....遊んでくれるお姉様方がよっ!
私はタッタカ歩きを止めにして、ふらふら〜っと公園の中に入ってみる。
案の定(ってでき過ぎ?)、ブレザータイプの制服を着て髪の毛しらっ茶けるほど脱色した目つきの悪いお姉様達が、今時珍しい
木のベンチの周りでたむろしてる。
じーっと見つめちゃうあたし。
中の一人が気が付いて、他の人達に声をかけてる。
全員がこっちを向く。
っひょーー!!流石にこの瞬間はゾクゾクしちゃう〜。
やだ!嬉しくってじゃ無くって、怖くってよ。
振り向いた顔は全部で五つ。
まぁまぁ、どなたも所帯ヤツレというか、なんだかすごいお顔してらっしゃることぉ。

「あんた、なに?」
「いえ、何でも無いです〜。」
声かけられて、なんでもない振りで答える私。
「じゃぁ、なにジロジロ見てんのさぁ!」
さぁて、ここからが難しいところ。
ここでホントに下手に出ちゃうと相手にしてもらえなくなっちゃうのよね。
だからと言って、いきなり突っ張っても「いかにも」な感じになっちゃって、面白くないし。
できれば「なんでこんな普通の子がぁ?」ってな方向に持ってきたいのよ、私は。
「んー、何してんのかな?って思ってぇ....」
私はちょっとニマニマしながらそう言ってみた。
「なんだよ?こいつ、もしかして馬鹿?」
ひゃはははは
笑い声が上がる。
よしよし、嘗めてくれ始めてるわ♪
「だってぇ、こんな時間にこんな所で何してんですかぁ?」
ちょっと笑われて心外っぽく、私。
「ばーか!おまえにゃ関係ねぇんだよ。」
「ふーーーん、こんな所で溜まってて何が面白いんだろ?」
チョコッと小声で言ってみる。
「なんだよ、こいつ。なんか文句あるわけぇ?」
引っかかった!!

5人は揃って長いスカート引きずって立ち上がる。
ひょほ!
上着は短くてスカートはとてつもなく長い。
お約束なのねぇ、これって。

「ちょっときな!」
中の一人がそう言うと、すっと他の4人に取り囲まれる。
内心喜んでるんだけど、おどおどした振りしてみたりして。
真昼間の住宅街って、誰も通らないのよねぇ。
怖いお姉様方に囲まれて、静かな通りを歩いてくって、なんだか不思議な感じ。
そのうちにさっきのよりもずっと広い公園に着く。
囲まれたままずんずん進んでいく。
木立の中のちょっと開けた場所に着くと、お姉様方の中でも一番偉そうな一人がすっと振り向いた。
「あんた、あたいたちに突っかかって、ただで済むと思って無いだろうねぇ?」
「え?えぇ?突っかかっただなんてぇ・・・私そんなつもりじゃ・・・」
私はおどおど振りを続ける。
「じゃぁ、さっきの口の聞き方はなんなんだよ!」
今度は別の一人が、あたしの肩を突きながら言う。
まだ早い、まだ早い。
ここで手を出しちゃったら、あっという間に終わっちゃうもん。
あたしはじっと我慢して、怖そうな顔してる。
でもホントはちょっと笑いそうになってんだけどね。
「財布出しな。」
「え?私・・・困ります〜。」
泣きそうな顔してみる。
「なにびびってんだよ!金寄越せば、何にもしやしねぇよ。」
えへらえへら笑いながら、別の一人があたしの手から分厚い鞄をひったくった。

「なんだよ!こいつ。鞄空っぽだぞ。」
その声で全員が一斉にこっちを睨みつける。
「おまえ、真面目な良い子ちゃんじゃないのかよ?!」
「なんだよ、この鞄は!!」
ひったくった本人がそれをほっぽり投げると、あたしに掴みかかってきた。
チャンスだわ。
あたしはすっと避ける。
っ?!
全員にちょっとした同様が走るのが分かる。
「コンノヤローッ」
前から二人が同時に突進してくる。
まず、右側の一人に蹴りを入れると、左側が伸ばしていた腕を掴んで逆にひねり上げる。
まだまだ油断してたんだと思うけど、左の一人は尻餅を突いて、右の一人はあたしに腕をねじ上げられたまま動けずに、あたしにぴったりくっついてる。
さぁて、これで前からは襲えない。
あたしは捕まえてる一人を盾にして、他の四人に後ろに回られないように何歩か後ずさった。
「こいつ!なんなんだよ!!」
あーーあ、こういうお姉様方ってパニクッちゃうとホントボキャ貧なのよねぇ。
例によってあたしは何にも答えずにただニマニマしてるだけ。
でも、身体の中でアドレナリンが湧き上がって溢れ出して、ドカドカし始めているのがはっきり分かる。
この瞬間なのよ!
これが忘れられなくて、喧嘩やめらんないのよね。

じっと睨みあってたんだけど、向こうは数が多いって過信してるし逆上しちゃってるから、先に仕掛けてくる。
「ッキーーーーッ!!」そんな声を上げて、今度は全員が飛び掛ってきた。
あたしは捕まえてた一人を前から一緒に進んでくる二人に向かって突き飛ばす。
その時、左側の一人があたしの腕を掴んだ。
右側からも突進してきてる。
まず、ダッと左側の一人の後ろに回るように走りこんで、右側から来てる一人を後蹴りで迎え撃つ。
「くぅっ!」
うめき声を上げて右の一人がうずくまる。
命中♪
そうこうしているうちに、突き飛ばした一人とそれをまともに受けた二人が体制を整えて向かってくる。
まずは左腕にしがみついてる奴をなんとかしなくちゃ!
あたしは腕を取られたまますっと座りこむと、そいつの足首に蹴りを入れてから取られていた腕をぐぃっと引いた。
あたしの上にそいつが倒れこんでくる。
すかさず転げて避けけながら立ち上がり、すれ違いざまに顔面に肘打ちを入れる。
でも、その時後に回られてた一人に気が付かなかった。
ぐぃっとあたしの髪の毛が掴まれて、思い切り後ろに引っ張られる。
まだ体制を整えてなかったあたしは、思わず後に転びそうになったけど、ちょっとジャンプして髪の毛を引っ張ってる奴に
ぶつかるように倒れ込んだ。
そいつ、まだ掴んだ髪の毛を離さない。
他の一人がタックルしてくる。
下敷きになってる奴が悲鳴を上げる。
「ぶぁっかぁっ!あたいが死んじまう〜!!」
タックルしてきた奴が、その声に驚いて身を離す。
あたしは自分の髪の毛のことも忘れて、転がってうつ伏せになろうとした。
ますます髪の毛が引っ張られる形になって、あたしもうめき声をあげちゃう。
「あうぅぅぅっ」
とにかく、この手を外さなくちゃ。
髪を掴んでいる相手の腕に思い切り爪を立てて、ぎゅっと握ってみる。
ちょっと力が緩んだ隙に、そいつの親指を掴んで捻る。
もうこのまま折ってやる!くらいの力を込めて捻る。
「うぎゃ!」
悲鳴とともに、やっと髪を掴んでいた手が離れる。
こいつぅ!!髪は女の子の命なのに!!
猛然と腹が立つ。
目の前が赤くなって、もう理性なんかぶっ飛んじゃう。
一人が蹴りを入れてくる。
その足を掴んで持ち上げる。
もう一人が胴に抱きついてくる。
後に蹴り上げる。
もう滅茶苦茶で、何がなんだか、誰が何処にいるのか分からなくなってきている。
あちこちから手が伸びる。
視野が狭くなった感じがして、一人一人の動きが掴めなくなる。
蹴りが入る。
こっちも蹴りを入れる。
パンチを繰り出す。
空振り。
もう一回。
肩を引いて、腰から、思いっきり捻って腕を伸ばす。

気が付くと、あたしは四方八方から掴まれて地面になぎ倒されてた。





             つづく....              


Copyright (c) 2005 千椰子